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01
Feb
2019

片頭痛

【症例の概要】

患者:60歳女性
主訴 片頭痛、肩こり、右頸部痛
現病歴 慢性的な片頭痛、低体温症、冷え症、肩こり症
職業 スポーツ用品メーカー社員管理職
※具体的な業務内容⇒ミシンを使った刺繍、縫製/商談/パソコン業務
習慣 一日10本前後の喫煙

【理学的所見】

  • 立位、座位ともに前傾姿勢が顕著であり、胸椎の後彎が強い。
  • 右肩甲骨周辺(C7~D6)部においての膨隆を認め、腹臥位では右菱形筋を中心とし右肩甲骨周辺の隆起を顕著に確認できるが、右菱形筋及び右僧帽筋にはそれほど強い筋収縮は感じられない。さらに右肩関節に運動制限が見受けられ、肩関節の牽引技法時に筋肉反射が不自然に起こる傾向(抵抗反応を示す)が見受けられる。
  • 頸部は右後頭窩及び右頸胸連結部に圧縮が感じられ、前後屈制限が見られる。
  • 開口時、口角が右側のみ下がり、喋っている際に顕著に現れる。
  • 腰椎部は典型的な右側屈、左回旋の傾向が見られ、座位、立位ともに後方重心が顕著に見受けられる。

【治療経過】

《初検時~1週間;通院頻度⇒2日に1度》

  • 初検から最初の1週間は患者の体質、性格、特性、自覚症状、他覚的所見を把握する為、検査目的主体の様々な技法を少しずつ試みた。その中で身体の反応及び変化を診ながら、その患者に最も適した技法を確認しながら治療を行った。
  • 抑制技法を主体とした身体調整を行い、さらに左右肩関節部、頸部、頭蓋部に限局した抑制技法を加えていった。
  • 三叉神経作用による頭痛への対処として蝶形骨の調整を目的としたSBSへの抑制技法、前頭骨リフトによる鞍隔膜の抑制技法を行った。

《1週間後~1ヶ月;通院頻度⇒週に2度》

  • 日に日に表情は明るくなり、頭痛、肩こりは軽減し、肩関節の動きも柔軟性が回復してきた。
  • 経過観察をする中で呼吸が浅く、力が抜きづらい傾向がある為、横隔膜の運動改善を図った。
  • 右肩周辺の肩こりを含む自覚症状は軽減してきたものの、以前として右肩甲骨周辺の膨隆は解消されていないことから、頭痛とも関連性のある肝臓に焦点を絞った治療を付加した。
  • 代償的に障害を受けている部分の原因となっている可能性のある部分へのアプローチとして、A-PラインP-Aライン及び脊椎のダブルアーチの減圧を意識した身体調整を行った。さらに上肢のリンパ排液を重点的に行った。

《1ヶ月~;通院頻度⇒週に1度》

  • 頭痛はすっかり消え、下部頚椎及び上部胸椎の緊張も緩和されてきた。
  • 以前よりも力は抜けるようになったが、若干、筋収縮の反射に不自然さは残る。
  • 横隔膜の緊張度も低下し、上手く出来なかった吸気、呼気のリズムがスムーズになってきた。
  • 何よりも会話の内容が前向きになり、仕事への意欲や家族との営みを積極的に楽しもうとしている様子が伺えるようになってきた。
  • 治療を始め、約1ヶ月が経過したこの時点で、昔から「C型肝炎」で、現在も治療通院中であることを突然告白される。さらに、直前の血液検査の結果で肝機能の状態を判断するのに最も重要な目安となる「血小板数」「ALT(GPT)※肝臓細胞に含まれる酵素」の数値が突如として良化し、執刀医のドクターに「何を始めたのか」と聞かれたことを打ち明けられた。

【考察】

頭痛には様々な種類があり、鑑別診断が大変重要になります。
問診の内容から“頭痛持ちの頭痛”と言われている1次性頭痛の中の「片頭痛」であることは想定出来たのだが、その症状は何が原因で起こっているのかをまず考えた。患者の日常生活の話を伺い、仕事、家事、関白なご主人のケアと本人の抱えているものが多く、肉体的にも疲労困憊であることは感じられた。さらに職場、家庭内での置かれている立場や責任の度合いによる精神的なストレスを抱えていることも感じられた。これらの様々なストレス下において、身体が起こす反応として交感神経の過緊張及び反射障害からの筋緊張が考えられ、これらを解消させる為に抑制技法主体の身体調整から治療に入った。
具体的な仕事内容を伺い、椅子に座った状態での刺繍縫製のミシン作業を長年に渡って大量にこなしており、その姿勢の継続から骨盤部の右側屈、左回旋の典型的な後方重心が形成されたものと思われる。
これらの重心線の乱れから、脊椎のセントラルアーチ及びダブルアーチが硬くなり、体腔内圧のバランスが崩れ、横隔膜の緊張度は増したものと考えられる。
さらに内臓神経反射が障害され、各臓器への血液循環が障害された可能性も考慮に入れ、A-Pライン、P-Aラインの力学線及びセントラルアーチ及びダブルアーチの改善を図った。また内臓の機能低下を防ぐ為、血流低下を起こさせないように血管運動のセンター(表層D2~D4、深層D4~D6)、さらには内蔵循環のセンター(D6~D12)に抑制の技法を施した。また、頭痛との関連性が深いと考えられている肝臓のセンターであるD5~D10(主としてD8~D10)にもヒルトンの法則に則り、アプローチした。
頭痛に限局した治療として、後頭窩、上部頚椎(横隔膜のセンターであるC3~5)、右頸胸連結部のリリースを行い、頭頂部及び側頭部の縫合に沿って抑制の技法を加え、ヘッドの法則に則り、頭蓋の表層の神経を通じ、深部の脳内血管の収縮を促した。三叉神経作用による頭痛への対処として蝶形骨の調整を目的としたSBSへの抑制技法、前頭骨リフトによる鞍隔膜の抑制技法を加え、さらなるP-Aラインの再構築とともに蝶形骨の安定を図った。これらは冷え性を解消する上で体温調節中枢を司っている視床下部への負担軽減をも兼ねることも出来るのではないかと考えた。
右肩関節の機能障害への治療として上肢帯の技法を左右丹念に行い、リンパ排液機能の回復、肩鎖関節、胸鎖関節、肩関節の緩解を図った。さらに肋間筋のリリースと横隔膜の調整技法とともに肝臓、脾臓にもマニュピュレーションを加えた。

 

本症例での治療方針としては力学的な協調性、液体の流動性、神経系の正常な統合と反射、血管運動センターとの関わりといったことを考慮して治療プランを考えました。様々な要因が幾重にも重なり合って、病変がつくられ、症状として現れているのだという考えをクラシカルオステオパシーから学び、さらに様々な角度から考察し、様々なアプローチ方法によって経過と反応を観察しながら、その患者1人1人が元気を取り戻せるように導いてあげることが最も大切であるとクラシカルオステオパシーから教えていただきました。また障害を受けている部分、又は症状として現れている部分にはそれらの原因となっている要因が別のところに潜んでいる可能性があるという考え方もクラシカルオステオパシーを学ぶことによって養われた気がします。

 

本症例を題材とさせていただいた経緯は、初検時から患者さんをよく観察し、よく話を聞き、様々な観点から考察し、最も適したアプローチ方法をその都度、考えて症状緩和まで導いたと思った後、“とあるタイミング”で患者自身が長年抱えていた「C型肝炎」罹患の話を打ち明けられたことがきっかけでした。
「C型肝炎」を治すことが出来る訳でもなく、進行を遅らせることが出来る訳でもないことは患者にも説明しました。また血液検査の結果で肝機能の状態を判断するのに最も重要な目安となる「血小板数」「ALT(GPT)」の数値が良化したことも、検査結果のデータ表を拝見させていただきましたが、今回の治療の影響であることを断定的に説明することは出来ません。しかし、クラシカルオステオパシーの治療理念に基づいて施術を進めていった結果がもたらした今回の現象であることは、紛れもない事実でした。

 

今回のことで「C型肝炎」について「インターフェロン」について、様々な勉強もさせていただき、さらに別の「C型肝炎」のキャリアの方にも直接会い、現在までの体験談を伺い、今回の患者の血液検査の結果が良化した現象の話もしてみました。その方も我々、オステオパスの治療領域や整骨院の位置づけというものを、快く理解していただいている方ではあるのですが、今回の血液検査の結果については、やはり治療効果と認めることはありませんでした。肝機能の血液検査の数値に関しては体調にも、精神状態にも大きく左右されるし、さらに数値の上下動に関しても、今回の数値レベルでは大した変化ではないと指摘されました。それよりも、今回のような難病の患者が難病を抱えて、普段から自分自身と葛藤している際の健康管理や心のケアをしてあげるのが我々の役割なのではないかとの言葉をいただき、まさに、ご尤もな意見だと感謝しました。今回の出来事は治療家として自分自身の存在意義を改めて感じることが出来た貴重な経験でした。このような経験もクラシカルオステオパシーの治療理念がもたらしてくれた結果だと心より感謝しております。

Osteopathy治療の症例- 2019/02/01